2005年衆議院議員選挙


今さらという感が否めないですが、衆議院が解散されましたね。ちょうど九州に旅行に行っている最中に解散で、その前後の祭り状態はあまり楽しめませんでしたが、九州の方は楽しめたんでいいかな、と(時間があったら、それは後で日付けを遡って書こうかと思っています)。


さて、今回の解散については、ことさらに「○○解散」というフレーズが使われていますね(曰く、「郵政解散」「猫だまし解散」「サプライズ解散」「やけっぱち解散」「お子ちゃま解散」…)。これだけ大量にこのフレーズが使われているところを見たのは、私は初めてです。今回の解散についてのフレーズを集めたら、結構おもしろい政治分析ができるのではないでしょうか。


で、今回の選挙については、新聞のみならず、あらゆるBLOGがこれを取り上げていますね。これだけ国民の関心を集められるというだけで、この選挙にはそれなりの価値があるように思います。では、その争点は何か。私としては、まず2つの次元があって、その中でさらに争点が分かれているように見えます。

  • 政治手法の次元


次元の1つめは、「政治手法」だと思います。今回の郵政民営化法案の否決については、自民党内からは(法案の内容より)首相の政治手法が問題だ、という声も多かったような印象があります。例えば、総務会を全会一致(あるいは総務会長預かり)の形にせずに多数決で決定したこと、解散をちらつかせて賛成を迫る手法、などです。否決後もすごくて、森前首相らの反対を振り切ってあっという間に首相は解散を決断、郵政法案に反対した副大臣政務官は解任、解散に反対した農水相も罷免して解散を閣議決定。さらに、郵政法案に反対した議員は自民党公認をせず、対立候補を立てる、と。


ここまで「多数決」「首相権限」「総裁権限」をフル活用した人は、近年あまりいないのではないでしょうか。


これは小泉さんが首相に就任して以来の政治手法の集大成といえるでしょう。例えば、派閥順送り人事をやめて閣僚を一本釣りするとか、官邸主導で物事を進めていくとかいう一連の流れですね。これまでの料亭でごにょごにょやる、という政治のイメージを変え、農村中心の利益団体の意向ばかりに与しないという方針を示したのが、小泉さんではないでしょうか。


今回の選挙では、小泉首相のこのような政治手法に対する賛否、が一つの争点になるでしょう。ときどき、この点を逃して「郵政はたいした問題ではない」と言っている人がいるように思いますが、郵政はこのような政治手法の違いを鮮明に示したという点で、私としては重要な課題だと思います。「独裁的」とも言われる小泉流政治手法ですが、これまでの選挙や総裁選で「郵政は民営化する」と明言してきた、その総裁を選んできたという事実をどう考えるのか。ここまで公約を明言してきたにもかかわらず、党員がいざ問題の法案になるとそれに反対するという政治のやり方が望ましいのか。


自民党の改革」とか「マナーからルールへ」とか他所のBLOGでは言及されているのが、この次元の争点でしょう。

  • 政策内容の次元


政策内容の次元において、郵政民営化法案が重要課題なのか、というのは、人によってかなり立場が異なると思います。まず、それよりも重要な課題(後述のものなど)があるという方も多いことでしょう。


一方、郵政民営化法案が重要だという場合でも、それは3つくらいの立場に分かれるでしょう。1つは、小泉首相の法案に賛成する立場。2つめは、そもそも民営化はユニバーサルサービスの保障の観点などから反対であるという立場(いわゆる「地方切り捨て論」)。3つめは、小泉首相の法案では民営化が不徹底であるから反対であるという立場。


郵政は、まず人事改革の点から語られるべきという方がいらっしゃって、これはそうかな、と私も思います。すなわち、公務員でなくなり、民営化されたんだ、という看板が変わると、それによって内部の職員の意識も大きく変わるということはありえます。次に、金の問題があって、これは郵政の中でも郵貯簡保をめぐる問題ですね。財政投融資改革の総仕上げ、という意味合いですが、これによってどのように特殊法人に対する資金の流れが変わるのか、見所ではあります。第3に、サービスの問題があって、これは郵便の効率性のアップとか、郵便局での複合サービスの実現とか、国際物流への進出とか、今の郵政事業の魅力を上げるインセンティブが発生し、また法的にもそれがやりやすくなる、という話です。同時に、これは効率性アップによって地方が切り捨てられる可能性も示唆する論点で、立場によって見方が大きく異なることでしょう。


これらについて賛否が存在するのは間違いないのですが、この議論と、先の政治手法の次元を混同しないことが、建設的な議論をする上での一つのポイントかと思っています。

    • その他の政策


その他の政策としては、民主党が争点化したがっている年金・社会福祉問題があるでしょう。いわゆる一元化とか。でも、全然この問題についての対立軸はハッキリしませんね。何と何が対立しているんでしょうか。


あとは、外交・靖国の問題があるでしょう。小泉首相の親米外交や、北朝鮮・韓国・中国への対応というのは一つ争点になりうる気がしますが、民主党との間でどういう対立軸が描けるのかよく分からない気もします。


こう考えてくると、私としては、政治手法が最も重要で、政策の内容については二の次かな、という感じです。こういうと「不届き者」とおっしゃる方もいるかな、とは存じますが、長期的な日本の政治を考えると、個別問題でどうするか、より議論や意思決定の構造をどう変えるのか、といったメタ的な問題の方が重要なのではないかと。


まぁ、私がそういう構造に関する議論が好きだ、というのが大きく効いているだけのような気もします。(笑)